2025.3.25 RONSPO
プロボクシングの「LeminoBOXINGフェニックスバトル131」(25日・後楽園ホール)で日本フェザー級王座の防衛戦予定だった王者の松本圭佑(25、大橋)が24日の早朝の減量中に意識不明で痙攣をおこす状態に陥って救急車で緊急搬送され試合が中止となった。大橋秀行会長(60)は、対戦相手の同級1位の大久祐哉(28、金子)、ファン、関係各所に謝罪するとともに王座の返上を明らかにした。メインにロンドン五輪銅メダリストで元OPBF東洋太平洋&WBOアジアパシフィックフェザー級王者の清水聡(39、大橋)と、元日本&WBOアジア同級王者の阿部麗也(31、KG大和)のフェザー級10回戦が繰り上げされ興行は行われるが、大橋ジムは希望者の払い戻しに応じることを発表した。
まさか井上尚弥を擁する“名門”の大橋ジムのボクサーまで…。ボクシング界で問題となっている水抜きのミスによる減量失敗がまた起きた。この問題には、細心の注意を払ってきて、これまで一人も、体重超過の選手をジムから出してこなかった大橋会長も秘蔵っ子の犯した失態に神妙な面持ちだった。 「この試合を楽しみにしてくださったファン、そして何よりここまで準備してくれた大久選手、金子ジムさんに本当に申し訳ない。これだけの舞台を用意してくれたLeminoさんや関係各所にどれだけの迷惑をおかけしたか。いくらお詫びをしてもしきれない。しかもチャンピオンカーニバルという大きな舞台。プロとして絶対にやってはならないことだった」 何度も謝罪の言葉を絞り出した。 松本の担当トレーナーで父の松本好二氏も「皆さんにご迷惑をかけて本当に申し訳ありません」と頭を深く下げた。 松本は、元々減量に苦労していたが、2023年10月に結婚後は、間食にさえ目を光らせる妻のサポートで、節制に努めて減量はスムーズにクリアできるようになっていた。だが、今回は24日の午前5時から自宅の風呂で汗を出す“水抜き”に入ったが、ある段階から汗が出なくなった。これが“水抜き”の怖い現象。突然、代謝が落ちて、いつもは落ちる体重が落ちなくなってしまうのだ。焦った松本は、なんとか汗を絞りだそうと、そのまま風呂に入り続けたが、激しい動悸と目眩が起きはじめて、完全な脱水状態に陥って体を横にしたまま動けなくなった。周囲は水分をとることを薦めたが、意識朦朧となるなかでも落とさねばならないとの使命感が無意識に働いたのだろう。水さえ口にすることをせず、やがて痙攣をおこして白目をむいて意識不明の状態になったため病院へ救急搬送された。 点滴などの応急処置で意識を取り戻し命に別状はなかったが、試合のできるような状態にはなく、大橋会長は、防衛戦の棄権、中止と王座の返上を決断した。 今回のタイトル戦には、日本プロボクシング協会が新たに導入した30日前、2週間前の「事前計量制度」が実施された。30日前は、リミット(今回は57.15キロ)の12%増以内(今回であれば64キロ)、2週間前では7%増以内(今回であれば61.15キロ)で、いずれもクリアしていたが、関係者によると、22日の練習後に異常な疲れを訴えており、抵抗力の落ちた肉体が風邪などのウイルスに侵されていた可能性もある。 病気による体調不良であれば、出場停止処分を回避することができるが、大橋会長は、事の重大さを受け止め、一切の言い訳をせず、JBCの処分を受け入れる考えを示した。減量の失敗による体調不良での棄権の場合は1年間の出場停止処分が下されることになる。
またメインに清水vs阿部の世界挑戦経験のある2人の注目のサバイバル戦が繰り上げられ、通常こういう場合は、チケットの払い戻しなどは行わないが、異例のチケット払い戻しに応じることも同時に発表した。それが大橋陣営のできる限りの誠意だった。 大橋陣営では、フェザー級でIBF5位、WBO9位、WBC13位に入っている松本が、今回の指名試合をクリアすれば、夏にも世界ランカーとの世界前哨戦を組み、年内にも世界挑戦する青写真を計画していた。だが、1年間の出場停止でその計画も白紙に戻ってしまった。再度、世界ランキングをあげてチャンスを手にするには、2年から3年の時間が必要になってしまう。また体重についてはスーパーフェザー級以上への転級が義務づけられる。 大橋会長は、「すべてにおいて甘いんだ。優しい言葉など一切かけない」と厳しく突き放した。 元OPBF東洋太平洋王者で世界挑戦経験のある父の指導を受けてきた松本は、ジュニア世代から突出した才能を見せつけU-15を5連覇して、フジテレビ系のテレビ番組「ミライ☆モンスター」に、度々取り上げられていた。2019年に東農大を中退してプロ入りを決意、プロ8戦目となる2023年4月に佐川遼(三迫)との日本フェザー級王座決定戦に判定勝利して初のベルトを獲得。初防衛戦はWBOアジア同級王者決定戦の2冠戦となったが、同級1位のリドワン・オイコラ(平仲)を“完封”した。ここまで4度の防衛に成功し、今回が5度目の防衛戦だった。 24日の夜になって松本は自身のSNSを更新。 「明日、3月25日に予定されていた日本フェザー級タイトルマッチですが、今朝救急搬送されたことにより棄権させていただく運びとなりました。チャンピオンカーニバル、Lemino興行のメイン、そしてチャンピオン側の棄権、恥ずべきことだと自分自身痛感しております。大変申し訳ございませんでした」と謝罪。「どんな処罰も重く受け止めて真摯に向き合っていきたいと思っております」と思いを伝えた。 プロ12戦12勝(8KO)無敗の才能に疑いはない。挫折をバネにゼロから立ち上がるしかない。(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)